Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “あしたのお天気”

 


春も梅雨どきも夏も妙だった今年は、
その影響がやっぱり出ているものだか、
秋に入ってもいつまでもいつまでも暑くって。
若い人らの、先取りが常の秋の装いってのも全く歯が立たず、
ファーづかいのブーツだの、ベルベットの花柄ワンピだの、
そんなものが着たいだなんて、
この炎天下に正気の沙汰かと問われたほど。
そんなほどにもロスタイムを持て余し、
ずっとずっと居座り続けた酷暑を指して、
夏より暑いという言い回しを
天気予報士の皆さんの口からさんざん聞いたほどの、
信じられないレベルでの暑さだったが。
そんな入り口から少しほど進んだ彼岸の辺りで、
今度はいきなりの急転直下、
とんでもなく冷え込む日が襲い掛かって来て。
暑さ寒さも彼岸までとは言うけれど、この極端さは何事かと、
大急ぎで長袖の用意をしたご家庭も多かったのではなかろうか。
それから多少は持ち直したものの、
暑い時期が長かったせいでしょか、
まだ少し寒いよね、
完全には持ち直してないのかななんて思っていたらば、
今の気温は平年並なんですてね。
そっかそうだ、
この時期は昼間のうちは暑いほどでも
朝晩は上着が要ったんだとやっと思い出しました。
ジェットコースターみたいな乱高下だったんで、
すっかりと翻弄されてしまったのでしょうね。
そして、長かった梅雨のせいで蝉が鳴き出すのが遅かったその割に、
秋の虫たちは暑いさなかでも順当に鳴き始めたこの秋ではございましたが、
それでも何かが影響したか、
松茸やマイタケなどというキノコの類の生育も遅ければ、
キンモクセイの匂いもまだしないのが微妙に不自然なこの秋は、
カレンダーをちゃんと見ている人には尚のこと、
気が気じゃあない あれやこれやも齎しているようで。






 「そっか、キンモクセーのによいがしないんだ。」

それでなくとも大きめな、黒々と潤みの強い双眸を、
わあと見開いてのそれから、
そっかぁそーなんだとやたら感心して見せる小さなお友達なのへ、

 「そうかと思えば、
  そういう品種でもないのに
  咲き始めちまった桜もあるらしいって言うしな。」

 「え? もう?」

ってゆーか、そういう品種って?
ランドセルのベルトをしっかと握った手に触れそうなほど、
キョトリとしての小首を傾げる様子へは、
同じ通学路をゆく女子高生たちが
“可ぁ愛い〜ぃvv”とついついはしゃいだお声を上げたほど。
ぴかぴかの陽を浴びながらという朝の登校は、
いろんな学齢の顔触れが同居するもんではあるが、
中にはわざわざ時間を合わせまでして
この時間帯を選んでいる顔触れもあるらしいほど、
名物の存在がこれありて。
片やは、
本物の金無垢を熔かし込んであるんじゃないかと思うほどの燦めきが、
最近とみに増して来た見事な金髪に、
琥珀にほど近い金茶色という、透き通った虹彩を据えた双眸。
ちょっぴりこまっしゃくれた表情を浮かべるお顔は、だが、
すっきりと整って愛らしく。
ほっそりした四肢を溌剌機敏に弾ませている、
なかなかにお元気な小学生の男の子で。
そして もう片やは、そんな彼といつも一緒のお友達。
色白な肌はすべらかで、そんな柔らそうなお肌が相応しい、
ふくふくとしたまろやかな表情の似合う、
ファニーフェイスのキュートな男の子。
陽に甘く暖めた、まとまりの悪い黒髪をぴょこたんと弾ませながら、
快活なお友達と並んで歩いており。
時々遅れがちになると、
待って待ってと追いかける様子がまた、
得も言われず可愛らしい、幼さよ。
微妙に舌っ足らずで、
物の感じ方や描写もずんと幼いが、
跳ねっ返りのお友達は、そんな彼なのもお気に入りなのか。
まま たまには癇癪を起こしながらも
(苦笑)
強く“正せ”と言ったりはしないままにしているようで。

 「キンモクセーはね、ウチのお庭にもあるんだよ?」
 「ウチにもあるぜ。」

  あれってよ、二回咲くって知ってっか?
  え? 二回?
  おお。

同じのが、なのか、盛りが二回なのかは確かめてねぇが、
気の早いのが今頃にまず咲いて、
それから少ししてどんと一杯咲くんだと。
だから長いこと咲いてる印象になるけど、

 「あれって結構すぐに花が散るじゃんか。」
 「あ、そうだよね。みかん色のお花、一杯落ちるもの。」

いーによいが いつまでもするから気がつかなかったけど、
そっか、そうなんだ。
うわあと素直に感心し、
そんなことまで知ってるお友達を
“そんけーの眼差し”できらきらと見やる素直な子。

 「すごいねぇ、ヒル魔くんって。
  何でも知ってるし、教えてくりるし。」
 「おしえて・く・れ・る、だ。」

舌が足らないところを指摘され、
はややぁと肩をすぼめてしまうセナくんだけれど、
すぐに笑い出すのが、実は…妖一くんには大きな安堵だったりもし。

 “ったくよ。一昨日は1日中泣きそうでいやがったくせに。”

秋晴れが続いていたはずが、急に強いめの雨になった。
秋雨前線が刺激されてのことだとかで、
全国的な本降りの雨になり。
稲刈りを待つ田圃にはまさに水を差したそれながら、
いやまあ多少は降ってくれなきゃ、今から育つ冬野菜にも影響が出るしと。
1年を通して高値が続いた野菜を案じる大人たちも多かったものの。
そんな事情なんか知りませんとばかり、
こちらの坊やがそりゃあもうもう心配そうにしていたもので。

 『ヒル魔くん、これって にちよーには上がるかなぁ?』
 『どうだろな。』

いきなり訊かれてもと、ケータイを取り出し、
ウェザーサービスを探している間も、
愛らしい傘を肩に、しおしおと不安そうにしていたお友達だったのはあのね?

 『だって、運動会。』
 『ああ。』
 『雨降ったら来々週になるし。』
 『そうだったよな。』

坊やたちの通う小学校の運動会は、
春に小さいのがあって、秋は10月第1週の日曜に本格的なのが開催されるのだが、
確かこちらもハッピーマンデーの関係、
“体育の日”が連休になるようフリーになったがため。
雨天順延の場合、
それにかぶさらない週へまでズラしてほしいと、

 “PTAだか、どっかの偉そうなママだかが言い出したらしくてよ。”

その結果、今年の運動会は、
雨が降った場合はなんと17日までお預けとなる。
まだ小学生なのだし、そうそう困る話でもなかろと踏んで、
学校側も特に異議は無しと承諾したらしいが、

 『ったく、勝手な取り決めしやがってよ。』

それだと大いに困る子らが実はいたから問題で。

 『王城しるばーないつは、
  1部Bブロックだから、2日3日に試合がないのvv』
 『そっか。ウチもその連休は空いてんぞvv』

坊やたちそれぞれが応援している、
某お兄さん方の所属する大学のアメフト部は、
その活動も秋こそが本番であり。
毎週末にはどこかのスタジアムにて試合がある。
とはいうものの、
何しろ4つのリーグに歯科医科大リーグと、
数多あるチームをそこへ振り分けにゃあならないし、
秋は連休があるとはいえ、
そうともなりゃなったで他のスポーツイベントともぶつかるがため。
結果、10月は隔週ゲームとなるチームも多く、
子ヒル魔くんが応援する賊学大フリル・ド・リザードも、
セナくんが応援する王城大シルバーナイツも、試合はなしだと。
やった運動会観に来てくれる…と はしゃいでいたものが、
あと数日という間合いに不意を突くよな大雨となったものだから、

  ―― 順延になったらどうしよう

小さなセナくん、そんな危機感に襲われたらしい。
だってだって、あのね?
10日ならまだいいの、
進さんトコは9日が試合だからしんどいだろけど観に来てくりる。
でもでも、17日になったらね?
進さん、試合があるの。
運動会のせいでセナもおーえんに行けないし、
そうなったら全然嬉しくない運動会になっちゃうよぉと、
今にも泣き出しそうなお顔をするお友達のため、
探せるだけの天気予報サイトを全部あたってのその結果、

 『大丈夫だ。
  この雨もあしたの朝までには上がるし、
  次の秋雨が降ったとしたって、
  関東地方は月曜以降だ。』

そりゃあもうもう、慣れない方面への問い合わせをしまくることで
午前中の授業は妖一くんまでが上の空になったほど、
わたわたとなってた雨の日で。
それが予言どおりに
(?)晴れた翌日からこっちというもの、
今度は嬉しくて嬉しくてたまらんらしい笑顔がやむことはなく。

 “疲れる奴だ、まったく。”

はぁあと吐息をつくものの、
にゃは〜と笑み崩れるお友達の無邪気さには太刀打ちも出来ず。
それに、唯一 誰もかなわぬそれとなった俊足を、
他でもない大好きなお兄さんに披露したい気持ちは…判らんでもないし。

 “そいや、ルイの奴め、ちゃんと来るんだろうな。”

セナくんのゆうーつに付き合ってたお陰様、
そういやまだ知らせてなかったなと、
ありゃりゃなんて今頃慌ててる子悪魔様だが、
大丈夫ですよ、あのお兄さんですもの。
さりげなく某歯科医のせんせえの動きを警戒しつつ、
重箱5段重ねほどのお弁当用意して、
ついでにてるてる坊主も山ほど作って、
準備万端、怠りなしだと思われますので、
心置きなく徒競走や綱引きの練習に励んでくださいませね?




   〜Fine〜  10.10.02.


  *日付を打っていて、
   そっか今年の10月10日って、
   西暦で 2010.10.10.なんだと、遅ればせながら気づきました。
   略して書けば“101010”なんですね。

  *それはともかく。
   今年もそういう季節が来たなぁと思いつつ、
   キンモクセイの匂いがいつまでもしないのが、
   ちょっと残念でなりません。
   これも暑さのせいでしょうかねぇ。
   そして、子ヒル魔くんは、
   あのお父さんの準備万端な周到さも警戒せねばだぞ?
(笑)

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